晴美制作室 株式会社

11.01.2002コバルビアスの木、ジャングル

今日も天気が良かった。お正月以後、暖かい日が続いている。風が強いせいか、空気が澄んでいてこのオフィスからキャロットタワーや高速を走る車の輪郭がとてもクリアに見えた。

コバルビアスの展覧会カタログ

 ウィンドウ越しに見える公園の木の名前はまだ分からない。今朝、裸の枝に1羽、2羽とひよどりが止まっていた。それをボーッと眺めるうちに、ミゲール・コバルビアスの木の絵を思い出した。ジャングルのように繁った緑の葉と木の根っこがちょうど逆さまに描かれたような絵。空に突き出た灰色の根っこには禿げたかが3羽、あたりを睥睨している。この不思議な木の名前も知りたい!

 コバルビアス(1904-1957)はバリ島の風俗・文化を世界に紹介した『バリ島』(1936)の著者として有名だけれど、同時に画家、カリカチュアリスト、考古学者、舞台美術家、ダンスプロデューサー、大学教授など数えきれない顔をもった巨人だ。コバルビアスの晩年の恋人を訪ねてメキシコに行ったとき、彼女からミゲールは木が大好きでたくさん描いたけれどほとんど残っていないと聞いた。彼がバリに魅かれたのは、動物のような生命力あふれる熱帯の樹木に、古代メキシコのジャングルを見たのかもしれない。

 このメキシコの旅では、なんとコバルビアスの妻が建築家ルイス・バラガン(1902-1988)の友人だったことから、バラガン自邸も訪問できたのだった!! 外観はまるで四角い倉庫のようだが、中に入ると印象は一変する。天井の高いサロンの片面はガラス張りで、ジャングルのような庭の緑と光が部屋を覆い尽くさんばかりだ。庭を歩くと、せまいはずなのに森の迷路を歩いているような感覚に襲われた。

 コバルビアスとルイス・バラガンはメキシコ生まれの同時代人だが、活動の時期と場所はそれぞれ異なっている。20年代にNYか、30年代にはパリで会っているのだろうか。二人にはどんな会話が成立しただろうか。バラガンはバリ島に行ったのかetc.……想像するだけでゾクゾクさせられる。

 私のメキシコ訪問からすでに5年! コバルビアスの本を作りたいという夢をなんとか実現させたい! 夢見るエディターで終わりたくない!と思いつつ、今日も日々の労働に追われた、あ~。(T)

(写真は、コバルビアスの展覧会カタログ。友人の中島ゆかりさんが奇跡的なご縁で1995年にメキシコから持ち帰ったもの。表紙の木は、マダガスカルのバオバブらしいと、ブログを書いたずっと後に知る)